(本記事は、執筆時2022年7月時点の情報です)
株式会社スタンバイは、日本最大級の求人検索エンジン「スタンバイ」の開発・運営を手掛けています。
“UPDATE WORKSTYLES 「はたらく」にもっと彩を”をミッションに掲げ、テクノロジーの力で世の中の「はたらく」をアップデートしていくことを目指す弊社ですが、どんな技術を用いてどこを目指しているのか。
本記事では、元ヤフーCTOとして日本の検索/広告技術を牽引、2021年1月より弊社CTOを務める明石信之より、その全容について語っていただきました。
【profile】 株式会社スタンバイ CTO 明石 信之
システム開発会社を経て、2000年にヤフー株式会社入社。Yahoo! JAPANの広告配信システムなどの開発に従事。2009年に同社CTOに、2013年にシニアフェローに就任。2014年に株式会社フリークアウト執行役員CTO就任。IPO後を見据えたエンジニアリング組織作りに携わる。2017年1月、フリークアウト・ホールディングス執行役員就任。その後、ユアマイスター、インフォステラ、フリークルなどベンチャー企業の技術顧問就任。2019年10月、東京都チーフデジタルサービスフェロー委嘱し、東京都のDX推進および構造改革のためのアドバイザーを務めている。2021年1月スタンバイCTO就任。
ヤフー元CTOが挑む新たな検索エンジンづくり
ーまずはじめに「スタンバイ」について教えてください。
スタンバイは、求人(仕事探し)に特化した検索エンジンです。 求人企業が良い人材の採用が出来ること、求職者がより良い企業に就職出来ることを最終目的としており、その課題を技術を用いて解決しようとしています。
主な技術としては、検索技術/広告技術を活用しています。 広告は2000年、検索は2008年からと私自身もう20年近く携わっている領域ですが、この間の進化も目覚ましく、いまだに新しい発見があるなど、非常に奥が深く一筋縄でいかない面白い領域ですね。
ーこれまで明石さんが関わられてきた検索エンジンと、スタンバイはどんな違いがあるのですか?
検索エンジンとは、ユーザーの意図を汲み取り、複数のドキュメントをランキング化したものを提供するサービスです。言葉にすると簡単ですがこれを実現することが、難しくもあり楽しい世界です。
ユーザー意図を汲み取るにしても、ユーザー自身が明確な意図を持たれていないケースもあるので、サービスに蓄積されたログによる統計やクラスタリングやユーザの属性などを利用して、検索文字予測(インテント)など周辺技術を活用しながらユーザー意図をより正確に導きだす必要があります。 ランキングにおいても、どんな順位でランキングするのが最適なのかという問いに答えはありません。一番オーソドックスな方法としては対象ドキュメントに含まれるターム数でランキングを出すものですが、それだけでは不十分なことも多く、機械学習を始めとする様々な技術を組み合わせてKPI沿った予測精度の改善を行っていることが多いですね。
そんな中でも、スタンバイが取り組んでいる求人検索は、特有の難しさがあると考えています。 例えば、通常のWEB検索などではユーザーのほとんどの検索は探したいものが明確で、的確なキーワードを入れて検索いただけることが多いです。しかし求人検索では、ユーザー自身が「働きたい」というニーズはあるものの、どんな仕事を探しているか不鮮明なことが多く、検索をしながらより多くの検索結果をみて探す傾向があります。例として「正社員」や「都道府県名」のみといったビックワードでの検索では、何を優先してランキングするか、検索結果だけでは補えないユーザーの意図をどのような技術で導くか非常に難しい問題だと考えています。
また、数字や記号など検索エンジンで当てづらい主観的なキーワードやストップワードの検索が非常に多いのも、求人検索の特徴です。EC検索でも”かわいい” “おしゃれ”などの主観的なキーワード、商品番号、型番などのストップワードは多いのですが、何を買いたいかのニーズを絞りやすいので予測しやすく精度を高めやすいですが、求人検索はこれに加えて就業先など位置情報などさまざまな条件を複合的に加味して解決しないものも多くあります。 そのため、通常の全文技術だけでは解決しないことも多く、後でもお話しますが、様々な技術を利用して、より求人を理解し、よりユーザのニーズに応えられるよう、最適な方法を日々考えながら改善に取り組む必要があるのが特徴ですね。
ー非常に奥が深い検索エンジンづくりですが、スタンバイで取り組んできたことについて簡単に教えてください。
今までやってきたことを順にお話をすると、オーソドックスに検索キーワードに対して全文検索エンジンを用い、いかにCTR最適化を行いランキングしそれらを継続的に向上させ、提供しつづけるいうことに注力しました。これは閲覧(クリック)されやすい求人はユーザニーズに合致しているであろうという仮説を前提にした取り組みであり、社内での改善サイクルの確立と全文検索エンジンのknowledgeの蓄積、KPIであるCTR改善においても一定の成果をあげることができました。
しかし、全文検索エンジンだけのon the flyで適切な検索結果を返すことの改善に限界が見えてきたため、次の取り組みとして求人票判定機の開発を開始しました。これは、検索エンジンにインデックスする前に、求人票を判定機にかけて、その求人がどのような求人なのかを事前にラベル付けするものです。 例えばコンビニ店員の仕事を探すために〈コンビニ〉で検索をすると、通常の全文検索だけではコンビニ店員の求人も、コンビニが近くにある施設ではたらく求人も一緒に出てきてしまいます。それらを事前に求人票判定器を通すことにより、コンビニ店員の求人なのか、コンビニが近くの異なる求人なのかを判定器を通してラベル付けすることで、よりユーザーが求めている結果を表示することができます。
実は、検索結果のCTRのみをKPIとして追求すると、検索結果に必要最低限の情報のみを表示して詳細を見ないとわからないようにすることで改善することはたやすいのですが、私たちの目的は最初に説明したとおり、求人企業が良い人材の採用が出来ること、求職者がより良い企業に就職出来ることです。ですので、ユーザのニーズにあった求人票で且つより質の良い求人票というものを追求しながらランキングできるように日々改善を続けています。
検索エンジンづくりの先に、見据える世界とは?「検索させない検索エンジン」
ー奥深い検索エンジンづくりですが、検索技術の現状についても教えてください
ひと昔前に比べて便利なソフトウェアが数多く生まれ、検索エンジンは多くの方が触れる身近な技術となりました。広告技術や推薦技術など現在でも活用される技術も検索で培ったknowledgeやエンジンなどの技術から派生しており、WEB業界に大きく寄与している技術領域といえるでしょう。
簡単に検索機能をサービスに投入するサービスが増えた一方で、検索を主要技術として真面目に開発に取り組んでいる企業は少ないと感じています。実際にビックテック以外で検索技術の開発に取り組んでいる企業は稀少な存在であり、検索技術の発展が一部会社とアカデミックに閉じられてしまっていますが、我々は、まさにそこに対して事業の成長という成果とともに挑戦していきたいと考えています。
私たちの技術はいわゆるビックテックと言われる企業から比べると大きくビハインドしていますが、スタンバイが取り組む求人検索は、現時点では非常にローカルに根付いた発展途上な領域です。競合含め求人検索エンジンでの明確な正解に辿り着いているプレイヤーはいないと考えているので、より挑戦しがいがありますね。
ー今後のスタンバイの展望はどう考えているのでしょうか?
現在は、求人の閲覧に対して最適化を行っていますが、今後、求人への応募や、果ては就職や採用というところまでこの技術を昇華させていきたいと考えています。
そのために、現在はユーザーニーズをより深めるための検索機能を多角的に開発しています。 今後検索エンジンのデータが溜まっていけば、ユーザーのデモグラフィックの情報を元に、よりユーザーに適した求人を表示することが可能となります。検索しているユーザーの環境を把握し、より合致している求人を提案する取り組みなど実施していきたいですね。これらの精度が上がれば、アプリのプッシュ通知などにも使えるようになります。これらはIR(Infomation Retrieval)の中でも推薦技術の領域となりますが、それらを活用しながら、よりユーザーのニーズにより合致する検索エンジンに仕立て上げていきたいです。
ただ、前述の通り、求人検索においてはユーザー自身、ニーズが曖昧なケースも多いため、今のような検索窓を置きユーザーに検索いただくモデルでは、本質的な課題解決にはならないと考えています。
将来的には、ユーザーによる検索ではなく、こちらからユーザーの意図を汲み取り、求人を提案できるサービスになることが必要です。ここまでユーザーの検索に対してより適した結果を出すかという取り組みについて話してきましたが、まさに目指すゴールは「検索させない検索エンジン」ですね。
今は正直まだやりたいことの半分も実現出来ているわけではないですが、一つずつ着実に階段を登っています。やればやるほど成果に繋がる実感は持てているので、まさに一番楽しい時期ですね。
ー最後にこれを読んでくださる方に一言お願いします。
色々なお話をしましたが、実際には、日々地道な技術の積み重ねと挑戦の繰り返しです。 スタンバイで取り組んだ技術の挑戦については、社内に閉じずに積極的に外に多く発信をしていきたいと考えています。検索技術や広告技術に興味がある方と繋がりたいと思っていますし、発信や交流などをして、より技術力を高めていきたいと思っています。
ーStanby Tech Blogにも通じますね。少しずつではありますが、今後もスタンバイの取り組みをブログを通じて発信していきたいと思います。本日はありがとうございました。
スタンバイのプロダクトや組織について詳しく知りたい方は、気軽にご相談ください。 www.wantedly.com